一杯目はビール。
誰が決めたのかはわからないが、気がつくと、さっきまで空だったグラスにビールがなみなみと注がれている。合図がされると全員一斉にグラスを口に運ぶ。
僕は喉を刺激する炭酸とアルコール独特のやくような味に顔をしかめる。向かい側に座っていた女の子が心配そうに声をかけてくる。
大丈夫、やっぱりビールは美味しいよね。
返事をする。嘘でもないし真実でもない。
**君って誰にも話しかけられたくなさそうな雰囲気だから。
僕がそんなことを言われるようになったのは数年前からだ。
自分が特別な存在だと思ったことは何度もある。その度に頭を振り、その考えを掻き消してきた。
周りの人間に監視されている。
小学生になった頃から、親からも兄弟からも、全ての人間が僕という生物の生き方を監視しているように思うようになった。僕の知らないところで、僕の知らない言葉を使って、或いは暗号のようなものを用いて僕のことについて話している気がしてならなかった。僕が何か重大な失敗を犯したり、周りの人間を超越する生物に変わったとしたら、殺されるような気さえした。
だから、僕には周りの人間が僕に何を望んでいるのかを敏感に感じ取る必要があった。そして、僕にはそれが出来た。
そうやって周りの人間の期待に応えて生きるのは簡単だった。幸い、それらの期待は僕の能力の範囲内で達成できるものばかりだったのだ。
続きます。
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