2010/02/12

あの場所で

僕がまだ元気だったころの話。

新幹線を乗り継いで、目的地は東北新幹線の山形駅。

新幹線は福島を過ぎて、景色はどんどん雪山になってくる。
新幹線というのは名前だけで、山沿いをゆっくりと走ってゆく。
真っ白な世界。
駅についても、降りる人は少ない。
駅では僕が受験する大学の学生が案内板を持って立っていた。

僕は知り合いの旅行代理店にお願いしてホテルをとっていたので、少し早い時間だったがホテルへ向かった。
歩道はところどころ凍っていて、よく滑った。
受験に来たのに、こんなに滑るなんて、落ちるかなと思った。

ホテルは安いビジネスホテルを予約していたので、部屋についても荷物を置くだけですることはない。
まだ16時ということもあり、僕は大学まで歩いてみることにした。

地図も見ないで出発したから、案の定迷った。
僕は方向感覚には自信があったけど、あとから考えると本当に見当違いの方向に進んでいた。
土地勘のない僕は、辺りが暗くなってくると急に不安になった。
大学もまったく見つからなかった。

県庁所在地なのに、ほとんど人気のない道で、おじいさんが女の人に道を尋ねていた。
僕は「あの、僕も道を尋ねても良いですか」と聞いた。
女の人は僕の受験する大学の卒業生で、音楽科出身だと言った。
とても、親切な方だった。
僕を大学まで徒歩で案内してくれて、もう暗くなっているのに大学の中も案内してくれた。
そして、ホテルの近くまで戻ってそこで別れた。
あとから、連絡先を聞いておけば良かったと後悔したものだ。

やはり、寒い地方は部屋の中が暖かいというのは本当だった。ホテルに帰ると部屋の中は熱いくらいだった。

次の日の朝、僕は早く目がさめて時間を持て余していた。
大学には試験開始の2時間以上前に到着した。
試験会場はなんだか薄暗い教室で400人くらいを収容できる大きさだった。
試験内容は小論文のみで、2時間。僕は時間いっぱいまで文章を書いた。
手応えはあったが、僕はセンター試験の点数が悪かったので、気持ちは既に来年のことを考えていた。

試験が終わって、僕はすぐに新幹線で家路についた。
家には18時頃について、父親は僕が東京で遊んでくるものだと思っていたらしく「なんだ、もう帰ってきたのか」と言った。自分が受験の時は東京で一週間は遊んできたらしい。

そんな高校生活の終盤だった。
僕はその後、合格することになる。
祖父に合格した旨を伝えると「お前は運の良い奴」と言っていた。どうやら意外だったらしい。
そして、僕の人生でもっとも濃い4年間を過ごすことになる。

もう一度、戻れるなら、あの時に戻りたい。
いろんなものを手に入れ、いろんなものを失った。
失いことはないが、もう増えることのない記憶。
あの場所で暮らしたい。
僕は二つめのふるさとを得た。

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